(社)銀鈴会 特別常任顧問
日喉連 顧問 廣瀬 肇
日本喉摘者連合会が新しい会長のもとで発展をつづけておられることに、まず敬意とお慶びを申し上げたいと思います。老月新会長は当面の活動方針を着々と考えておられるようですが、その過程で、新しく国家資格として成立した言語聴覚士の制度が、食道発声の指導とどのように関わってくるかについて強い関心をもっておられるように見受けられました。そこで、今回は言語聴覚士の現状と将来について食道発声指導の問題を考慮に入れながら簡単に述べてみたいと思います。
ご承知かとも思いますが、言語聴覚士法は、平成10年に施行され、平成14年2月の時点までに四回の国家試験が実施された結果、5,600余名の言語聴覚士が誕生しています。そもそも法で規定された言語聴覚士の業務とは、「音声、言語、聴覚に障害のある者の機能の維持向上を図るため訓練、助言、指導などを行う」ものであるとされています。従って、喉摘者の音声リハビリテーションもその業務の範囲に入ってくるものと考えられます。このような見地から、教育の現場では各種の音声障害に関する授業の中で、無喉頭音声をとりあげ、その実態や対策についての講義を行うのが望ましいとされています。
しかし実状をみると、無喉頭音声についての講義、とくに食道発声訓練の実技教育などについて、十分な教育ができる機関は現在わが国ではかなり限られていると思われ、講義内容として単に無喉頭音声の存在を指摘するに止まっている段階と思われます。勿論、この問題に興味を持つ若い世代もあることは事実ですが、医療やリハビリテーションの現場で個々の喉摘者あるいは喉摘者グループの訓練に言語聴覚士が多数参加してくることは当面、あまり考えられません。
このような事情から、喉摘者の発声訓練、指導については現状通り日喉連を中心とする喉摘者自身の取り組みが今後も絶対に必要です。ここで念のため申し上げますが、言語聴覚士法が成立しても、食道発声の訓練、指導に言語聴覚士以外の人が関与することはなんら違法ではないことをこ理解下さい。とくに日喉連所属の各団体において喉摘者がボランティア活動として新しい入会者の指導をすることなど、法的に全く問題がないのです。なお、将来の可能性として、これらの団体が言語聴覚士を雇用して訓練の一部を担当させることもできると考えられます。
言語聴覚士は音声・言語・聴覚に関する基礎的、臨床的な知識を十分に備えることが要求されており、国家試験もこの点を考慮してかなり広範囲の出題が行われている現状です。こうして誕生する言語聴覚士は喉摘者が行う食道発声訓練の良き理解者、協力者として育っていく可能性が高いことをご理解の上、これからも彼ら彼女らの社会的成長を見守ってやって頂きたいと考えています。
‥‥平成14年日喉連誌32号‥‥