大阪府立成人病センター名誉総長
日喉連 顧問 佐藤 武男
20世紀末の1990年代には世紀末現象といってもよい位の多くの難問題が噴出してきました。私はこれらを敗戦後50年間に積み重なってきた「民族疲労」のつけだと考えています。金属に疲労が起これば、飛行機は墜落しますので大変心配しております。民族疲労の原因として、「3才より塾通い、いい学校、いい会社」などの「ガンバリズム」が考えられます。この疲労のシンボルとして、1985年の世界一の航空事故、日航機の墜落が象徴的に思い出されます。
しかし、20世紀後半に日本人が成し遂げた多くの優れた業績があります。私が最も誇りに思っていることは「平均寿命が世界一」ということです。「何だ、そんなことか」と言われるかもしれませんが、私は人生において長寿が与えられることは原則としてオメデタイことだと考えます。人間はいくつで死んでも早死であり、死は不条理だと思います。21世紀に入った現在、日本人の平均寿命は77才(男)、84才(女)となっています。平均80才さらに100才長寿の方が13,036人(2000年)も生きておられます。私は二名の百歳長寿の喉摘者を看取った経験があります。かって、世界最高長寿者が日本の南西諸島の徳之島に住んでおられました(泉重千代氏、120才8カ月)。ギネス・ブックに登録された記念に、立派な銅像が建立されています。われわれは泉さんを日本人の長寿の目標として生き続けたいものですが、同時に不老長寿の限界として素直に納得したいと思います。
長寿者の多い地方はシャングリラ(地上の楽園)と呼ばれていますが、世界的にコーカサス山脈、カラコルム山脈、南米エクアドルの高原などが有名で、高原に住み、果物をよく食べ、粗食し、高齢になっても引退しないことなどが特徴としてあげられています。日本の鹿児島、沖縄などの南西諸島はシャングリラとして世界的に有名となっています。
秦の始皇帝が徐福に命じて不老長寿のくすりを求めさせたという伝説は有名ですが、現在に至るまで、「老い」を癒すくすりは発見されておりません。がんを予防するくすりもありません。他力本願ではだめで、人間は生きてきたように病気になり、生きてきたように死ぬのです。21世紀の日本人の死因はがん、血管の老い(心筋梗塞、脳梗塞)で60%を占めますが、これらを克服した人は平均寿命が更に8才延長し、男は85才、女は92才となります。日本は益々超高齢社会となり、100才長寿も目前に迫っています。しかしこの社会を悩ませるものに痴呆があります。この人生の晩期に多くなる痴呆、寝たきりを防ぐための考え方として、「平均寿命」の代わりに、「健康寿命」という言葉が浮かびあがってきました。これは寝たきりでなく、自立生活ができているということです。この「健康寿命」も日本人は世界一となっており、男は71才、女は77才(平均74才)となっています。そこでこれからは、この「健康寿命」を更に延長させる努力が大切となっています。
現在の日本では「平均寿命」と「健康寿命」との差が6年もあり、この6年が「寝たきり」の期間なのです。この6年を短縮させて平均寿命に近づける努力が求められているのです。理想としては、平均寿命まで元気に生きて、PPK(ピンピンコロリ)と大往生することを天寿を全うすると称しています。この天寿を全うするときには、死の苦痛は少なく、安らかに天国に昇ることができるでしょう。この「健康寿命」を更に延長するためには、日常の衣食住環境の整合が最も重要となります。それには三食ともきちんとしっかり食べ、適正体重を維持すること、間食をやめ、禁煙し、飲酒を減量すること、適当な散歩と運動をすること、よく睡眠すること。そして居間を改築し、こけない、風邪をひかないようにすること、リズムのある規則正しい生活を続けること、よい家族、よい友を持つこと、成人病、老人病のコントロールを続けること、などなどを毎日毎日、積み重ねることによって天寿が与えられます。「健康長寿百歳」を全うして下さい。
‥‥平成13年日喉連誌31号より‥‥